物体の位置を保持したり、運動の状態を変化させたり、物体を変形させたりする何らかの作用は一般に力とよばれ、これらをまとめて力の作用による物体の運動と捉えると、物体の運動を扱う力学に関しては高校に進学するまでにも触れてきたことでしょう。
このうち、物体の変形に関する力学については、物体の変形を考慮しない力学を習得した後、物体の変形の解析に都合がよいように再度定式化することで扱うことが可能になりますが、基礎方程式が偏微分方程式になるなど数学的な要求が厳しくなり、高校生が厳密な形式で扱うことは困難なため、ばねの力のように変形の機構の理解が要求されない形でしか扱うことはありません。
このため高校では、変形しない、または、変形する物体の機構の理解が要求されない形で物体の運動を論じる手法を中学校までよりは突っ込んで学習することになり、物体の体積は無視して、物体の有する物理的性質だけを保持する質点とみなす場合の運動と、剛体とよばれる変形しない、大きさのある物体を、質点の集合体とみなした場合の釣り合いについての解析する手法を扱います。
本章では、上記を高校で学習する数学を用いて説明するとともに、高校物理と物理学では同じ内容の方程式が、物理学ではベクトルの方程式で表示されている一方で高校物理では特定の成分に関する方程式のみで表示されているなど見かけ上異なることがあるため、将来、物理学で必要となる見方を提示した上でこれらは同じ内容を記述していることに言及し、物理学との差異に混乱を生じないように説明を加えていきます。