4-2-1 運動の第1法則

 運動の第1法則は

すべての物体は、加えられた力により運動の状態が変化させられないかぎり、静止の状態、または一直線上の等速度運動の状態を維持する。

と記され、「慣性の法則」ともよばれています。ただし、慣性の法則は、前節において慣性という用語が、物体の運動の変化のしにくさを表す言葉であることを述べましたが、物体の運動のしにくさを表す意味では使われていないことを一応注意として挙げておきます。

 この運動の第1法則については、ニュートンが、その著書プリンシピア※1の「定義」において、運動の法則を提示する前段としてⅠからⅧまで運動の体系を論ずる際に用いる用語の説明をして、さらに、「注」として時間と空間について考察を述べていることから、本項では第1法則を「注」との関連させて解釈していきます。ただ、以下に、プリンシピアの抜粋を記載しながら説明していきますが、プリンシピアは難解な文章で書かれていて、抜粋を読んでも納得いかないこともあるかもしれないことと、その難解は内容に対する個人的な見解を書いていくつもりなので、疑問を持った人はプリンシピアの最初の50頁くらいを読んでみてください。

 まず、「注」のⅠでは、私たちが時間とよぶ物理量について絶対的な時間と相対的な時間の説明をしていて、「絶対的な時間は何にも影響されずに一様に流れているときの経過」との説明に対して、「相対的な時間は、私たちが「秒」のように各々の都合で設定した一定の間隔に区切った時間」と説明されています。

 また、「注」のⅡでは、私たちが空間とよぶ概念について絶対的な空間と相対的な空間の説明をしていて、「絶対的な空間は如何なる外的要因にも影響されない同形、不動な空間の広がり」と記述し、「永遠に変化しない性質を有する」としているのに対して、対になる概念として「相対的な空間は、宇宙空間を運動する、例えば惑星を基準にして空間を把握するような、絶対的な空間内の別の無数に存在する空間を把握する同じ広がりを持った立場」であると述べています。

 さらに、「注」のⅣでは、絶対運動と相対運動について述べていて、「絶対運動は、ある物体の絶対的な場所から他の場所への移動」と説明しているのに対して、「相対運動は、ある物体の相対的な場所から他の場所への移動」と説明しています。また、このことは永遠不変な時空内で定義された運動と、地球上に設定した座標系のように、地上で静止していても地球が動くなら絶対運動としては移動しているといった、立場の違いにより差異が生じることを述べて、絶対運動の可能性について触れ、「他の物体の場所や運動の基準となりうるところの、真に静止する物体というものは有り得ないため、哲学的な議論においては、われわれの感覚から抽象し、それらの単なる感覚的な測度とは別な、物それ自身を考えなければならない。」と述べていることから、プリンシピアを読む限り、具体的に例を挙げられていないように感じますが、絶対運動は存在してほしいし、存在するものとしているように受け取れます。

 そして、以上を考慮すると、まず、「注」では、運動の法則の前段として絶対時間と絶対空間における絶対運動について述べることから、絶対運動が成立する座標系と一致、または、原点や速度が異なる絶対系と同等な立場である「慣性系」の存在を前提とするということを宣言することで、次に続く、運動の第1法則で、力の作用を受けないかぎり、慣性系である座標系は慣性系であり続けることを通じて、力学の舞台である宇宙は永遠不変であることを断定して、宇宙の容器としての性質について述べているとも解釈することができます。

 ただし、この説は、私がプリンシピアを読みながら力学を勉強して、「注」と運動の第1法則を上記のように解釈した上で、運動の第2法則で運動の数学的記述方法を述べて解析手法を提示した上で、運動の第3法則でその際の物体間の相互作用の関係を規定したと解釈したほうが筋が通ると感じたから採用した説であり、国内の書籍では、慣性系の存在を明言するための法則であるとする立場がとられているものが多いことを断わっておきます。

 いずれにしても、少なくとも大学入試で、運動の第1法則は何を意味するかという問が出題されて、解釈を求められることは無いと思うので、本編の解釈に納得がいかなくても文言通り憶えていれば問題は生じません。

※1「[プリンシピア 自然哲学の数学的原理 第Ⅰ編]

アイザック・ニュートン 著 , 中野猿人 訳・注 , 講談社」