以上の考察では、物体の運動の変化のしやすさ(しにくさ)については言及しませんでしたが、私たちが感覚的に認知する重い、軽いという感覚は、物体の運動に影響することは経験的に確実です。
そして、このことは、変位、速度、加速度、力だけでは運動を記述する要素が不十分であることを意味していて、さらに運動の変化の大きさに関する量を定義する必要があり、この量は質量とよばれます。
この質量について、私たちが軽いと感じる物体の運動は変化させやすく、重いと感じれば物体の運動を変化させにくいことから、質量は運動の変化のしにくさを表す物理量と結論でき、運動の状態を維持する性質を慣性と表現することから、運動の変化のしにくさ、つまり、慣性の大きさを表すスカラー量として慣性質量とよばれます。
さらに、万有引力を定義する際には慣性質量と別の概念である重力質量という量が現れますが、実験的には、ほぼ同値であることが確認されていて、このことから、万有引力(重力)を測定することで慣性質量が決められます。また、理論的にも、相対性理論における等価原理とよばれる概念により両者は同一であることが結論されていることから、区別すると余計な混乱が生じるためか、高校物理では特に区別せずに質量と表現されているので、以後、区別せずに質量とよぶことにします。上記の区別を詳しく知りたければ、大学に合格した後、力学、電磁気学、相対性理論あたりを学んで、確認してみてください。