物理学という学問には、数学という言葉を用いて自然現象を記述する手法を開発して、宇宙で起こる自然現象を理解する手段を獲得する理論構築の側面と、開発した手法を用いて既知の実験結果を解釈することや、未知の現象を予測することで新しい知見を獲得して自然現象に対する理解を深めることに加えて、有用な技術の開発に役立てるといった応用的な側面があります。
それでは、研究者や技術者が新規の理論の出現とともに何の苦労もなく理論を理解して使いこなせるようになるかというと、例外的に優秀な人を除いて、通常は四苦八苦しながら理論を理解した後、何とか使いこなせるようになるというように、地道に進むことを強いられます。そして、この見方の延長で高校生の物理の習得に目を向けると、物理と並行して数学を習得しながら学んでいく必要があるために二重の困難を乗り越えなければならず、理論の習得に専念するだけで手一杯となり、当然、新理論の構築や応用による自然現象の究明ということに関わることは不可能と言えます。また、高校物理の範囲に限っても、真面目に理解しようとすると高校で学ぶ数学だけでは全てに対処できず、最先端の物理には触れられないし、仮に扱ったとすれば、限りなく100%に近い人が挫折することが予想され、現在、確立している物理の基礎的な概念を習得して、比較的単純な例に適用できるようになることを到達点にすることが妥当といえるでしょう。
しかし、現状の高校物理の教科書を見ると、天下り的に提示された物理量を元に説明が展開されるような内容が散見されること、また、高校で習得する数学を使えば見通しが良くなるように思える内容であっても頑なに最低限の数学の使用で済まそうとする意図が感じられることなど、将来、物理を使って仕事をする気のある、数学の習得が進んでいる理系の人に対しては、配慮が必要ではないかと思える内容が存在することが個人的に気になります。
そこで、本編は、高校物理の教科書では概略のみを文章で説明されているような内容を本気で理解しようとすると、どのような知識と数学的技能が必要であって、高校で学習する数学を用いて理解することは難しいことなのか、また、高校で学習する数学を使えば現象の理解がどの程度進むか、さらに、高校で扱う内容だけの使用では限界がどこにあるか、そして、数式で表現した内容が何を意味するかに言及して、高校で習得すべき物理の概要を提示するつもりで作成しました。
以上より、本編は数学と物理に関して教科書を一通り勉強して、一応、問題を解けるようになっている程度に勉強に時間を費やした人、または費やす気のある人を読者として想定していて、意図したものになっていれば、高校物理と大学入学以降に遭遇する物理学との乖離の解消に役立つ内容になっています。そして、高校物理の教科書の理解や問題演習の際に問われていることが分からないといった問題が生じた場合に解決に至る道筋を見出すこと、さらに、高校生が習得する数学だけでは物理学の理解に限界があって、高校段階の物理の学習には割り切りも必要と認識していた方が良いことを実感することに利用してもらえればと考えています。また、高校生は大学入試を突破することが第一目標であり、物理学的方法を試験で使うと時間的に難しくなるケースも多々ありますが、物理学的手法と紐づけて高校物理を習得すれば物理に対する理解が深まるとともに、物理を記述する言語である就学の理解も深めることができるので、本編は物理で生計を立てようと考えている人には役に立つ内容であると考えています。